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内閣 第65条~第75条
第73条 内閣の事務

【弁護士】 次は、内閣の権能について勉強しましょう。これについて定めたのが、憲法73条ですね。

【学生】 えらくたくさん書いてありますね…

【弁護士】 嫌がらずに一つ一つ一緒に見ていきましょう。まず、本条の柱書に、『内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ』と書いてあります。この柱書の趣旨は、73条の各号は重要な行政事務を挙げているだけで、内閣の権能はそこに列挙されているものに限られないということにあります。

【学生】 行政府ですから、当然ですよね。

【弁護士】 では、73条に列挙されているものをみていきましょう。まず1号には何て書いてありますか?

【学生】 1号には、『法律を誠実に執行し、国務を総理すること』と書いてあります。内閣は行政府なのですから、法律を執行することは当たり前ですよね。

【弁護士】 確かにそうですね。しかし、ここで重要なのは、法律を『誠実に』執行することなんです。つまり、たとえ内閣の賛成できない法律であっても、法律の目的に適った執行を行わなくてはならないということを内閣に義務づけることに趣旨があるんです。

【学生】 なるほど。では、『国務を総理する』とはどのような意味なのですか?

【弁護士】 実は、この文言の意味は諸説あるのですが、行政事務を統轄し、行政各部を指揮監督することを意味すると解しておけば足りるでしょう。次は、2号にいきましょう。

【学生】 2号には、『外交関係を処理すること』とあります。これはそのままですね。

【弁護士】 はい。では、3号はどうですか?

【学生】 3号には、『条約を締結すること。但し、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を経ることを必要とする』とありますね。

【弁護士】 条約を締結する権能は、外交処理の権能の一環として、本来的に行政府に属しているはずですよね。なのに、なぜ憲法は国会承認まで要求しているのだと思いますか?

【学生】 それは…民主的コントロールを及ぼすためですか?

【弁護士】 そうです。条約は法律に優位すると解釈されているほど強い効力を持っています。そうすると、条約は、国民の権利義務に直接関係するものといえますから、憲法は、その締結に国会の関与を要求してコントロールを図ろうとしたわけです。

【学生】 なるほど。このような国会意思の尊重という考え方からすると、但し書きは、事前承認を原則とし、事後承認はやむをえない場合に限られるということになりますね。

【弁護士】 はい。ちなみに、この条約締結についての国会の承認には、衆議院の優越が認められる点も覚えておいてください。くわしくは、61条・60条の箇所を参考にしてください。では、4号にいきましょうか。

【学生】 4号は、『法律の定める基準に従い、官吏に関する事務を掌理すること』とあります。『官吏』ってどういう意味の言葉ですか?

【弁護士】 実は、この『官吏』の具体的な範囲も問題となるのですが、さしあたり、国家公務員と考えておいて問題ありません。

【学生】 ということは、ここにいう『法律の定める基準に従い』とは、国家公務員法で定める基準に従いということですね。

【弁護士】 その通りです。優秀ですね!では、5号にいきましょう。

【学生】 5号は、『予算を作成して国会に提出すること』とあります。

【弁護士】 財政(憲法第7章)のところで詳しく勉強しますが、予算は、作成権が内閣にあり(86条)、その執行のためには国会の議決が必要です(83条)。国会のところで勉強しましたが、この国会の議決は、どのような特徴がありましたっけ?

【学生】 衆議院の先議権と優越性です(60条)。

【弁護士】 あなたは非常に優秀ですね!これは重要なポイントですので、国会のところでもう一度確認しておいてくださいね。

【学生】 私は理解しているので、もう大丈夫ですよ。では、6号に進んでください。

【弁護士】 (唖然として、)あ、そうですか。6号は本文で、『この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること』としていますね。政令とは何か知っていますか?

【学生】 内閣の制定する命令のことをいいます。

【弁護士】 そうですね。では、命令ってなんですか?

【学生】 えぇっと…

【弁護士】 行政機関によって制定される法規のことをいいます。法規の概念も色々あるのですが、ここでは定めという意味に解しておけばいいですよ。つまり、6号は、内閣が何らかの定めを作ることができるということを言っています。

【学生】 しかし、国会のところで勉強した国会中心立法の原則からすると、内閣が定めを作ることは許されるべきではありませんよね?

【弁護士】 いいところに気がつきましたね。この6号で制定できる政令というのは、国会中心立法の原則との関係で、法律を執行するための細かい事柄を決める執行命令か、法律から委任を受けて細かい事柄を決める委任命令しか認められないと考えられています。

【学生】 なるほど。色んな分野の横断的理解が必要ですね。

【弁護士】 最後に7号にいきましょう。

【学生】 7号は、『大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること』とあります。言葉の意味が分からないのですが…

【弁護士】 これらは恩赦と呼ばれるものです。恩赦とは、行政権により国家の刑罰権の全部又は一部を消滅若しくは軽減させる制度のことをいいます。分かりにくい大赦と特赦の言葉の意味を説明すると、大赦は一定の犯罪者全体について刑を消滅させるものをいい、特赦は特定の者について刑を消滅させるものをいいます。

【学生】 ところで、内閣の権能は73条に定められているものに尽きるのですか?

【弁護士】 いいえ。本条以外にも、3条・7条の規定されている、天皇の国事行為に対する助言と承認、6条2項に規定されている、最高裁判所長官の指名、79条1項・80条1項に規定されている、その他の裁判官の任命、53条に規定されている、国会の臨時会の召集、87条に規定されている、予備費の支出、90条1項・91条に規定されている、決算審査及び財政状況の報告などがあります。
一般事務等も含めて、内閣が職務を行うのは、内閣法4条1項により、閣議によるとされています。

【学生】 73条って長いし、読んでも「ふぅ~ん」という感じで終わってしまっていたのですが、今日一つ一つ検討したおかげですごく良く分かりました。

【弁護士】 そうですね。各号にそれぞれ深い意味があるので、今日の話が内閣の権能を理解する手助けになれば幸いです。

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