天皇

戦争放棄

人権総論

人権各論

統治総論

国会

内閣

司法

その他

財政 第83条~第91条
第84条 課税の要件

租税法律主義

(1) 意義と内容

【弁護士】 では、まず、84条の定める租税法律主義について勉強していきましょう。この原則は、規定の文言から分かるように、租税の賦課・徴収が必ず国会の制定する法律によらなくてはならないというものです。具体的にどのようなものが法律で定められなくてはならないか分かりますか?

【生徒A】 だれが納税しなくてはならないか、何に対して課税されるか、どのくらい税金がかけられるかでしょうか…?

【弁護士】 そうですね。これは課税要件といわれるものです。これだけでなく、租税の賦課・徴収の手続まで法律で規定する必要があると考えられています。84条が定めるこの点は、課税要件法定主義と呼ばれます。これに関しては、一つ問題があります。それは、通達で課税が出来るかという問題です。お二人は通達という言葉を聞いたことがありますか?

【生徒B】 ありません!!!!!

【弁護士】 B君、そこは元気よく言わなくて大丈夫ですよ。

【生徒A】 僕は聞いたことがあります。確か、法律の解釈や行政の運用方針を国や地方公共団体で統一するためのものだった気が…。

【弁護士】 そうです。通達とは、上級行政庁が法令の解釈や行政の運営方針などについて下級行政庁に対してなす命令を意味します。簡単に言ってしまえば、各省庁の大臣や都道府県の知事といった、行政の意思決定をする人たちが、その団体における意思統一をするために、部下に、「このときはこう処理してください」とか「この法律はこのように解釈することにします」といった形で伝えておいて、考えを一つにしておくということですね。通達は、法律ではないので、通達で課税することにすれば84条に違反するのではないかということが問題になるわけです。

【生徒B】 そんなの無理に決まってるじゃないですか!さっき、課税要件は法律で定めるって勉強したばっかりなんだから…。

【弁護士】 そうですね。ただ、通達というものが法律の解釈の指針を決めるものなので、通達による課税なのか、通達は単なるきっかけにすぎず法解釈を正しく改めただけなのかの区別が微妙な場合があります。これが問題となったのが、「パチンコ遊戯具事件」と呼ばれる事件です。事案の内容は、10年間も、パチンコ球遊器には課税がされていなかったにもかかわらず、「課税物件である遊戯具という法律の文言にパチンコ球遊器も含めることにします」という通達で、突然、課税をされることになってしまったというもので、これは法律ではなく通達による課税であり84条に違反するのではないかという点が問題になりました。最高裁はこれに対して、何と判断したか知っていますか?

【生徒A】 たしか、最高裁は、もともと遊戯具という法律の言葉にパチンコ球遊器が含まれていると考えるべきなのだから、この課税は法律の正しい解釈に則ったものにすぎないと判断したと記憶しています。

【弁護士】 そうですね。つまり、最高裁は、この課税は法律を正しく解釈したもので、通達は単なるきっかけにすぎないのだから、法律に基づいて課税をしていて、84条に違反するものではないと判断しました。

【生徒B】 でも、通達によって課税されたのは明らかなんだから、法律に基づくものではないと考えるべきだと思うなぁ。

【弁護士】 そのように考える学者の先生方も多いので、B君の考え方も十分成り立ちますよ。また、この84条は、そもそも国民のために課税要件を定めようというものですから、法律で定めるだけでなく、誰でも内容が理解できるように、明確に定められなくてはならないとも考えられています。これは、課税要件明確主義と呼ばれます。

 

(2) 適用範囲

【弁護士】 さきほどB君に読んでもらったとおり、84条は「租税」について法律を必要としています。そこで、この「租税」に含まれるものは何か、つまり、どのような内容のお金について法律の規定が必要かが問題となります。判例は、「(本条における)「租税」とは、国家が、その課税権に基づき、特別の給付に対する反対給付としてでなく、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、一定の要件に該当するすべての者に課する金銭給付である」としています。

【生徒B】 先生、わかりにくいです。反対給付ってなんですか?

【弁護士】 いきなり判旨言われてもわかりませんよね、すいません(笑)。反対給付というのは、対価です。みなさん、コンビニでおでんがほしいと思ったとき、店員さんにお金を支払いますよね?これは、おでんをゲットする代わりに、お金という対価を支払っている訳です。つまり、この場合、みなさんは、お金を給付する代わりに、おでんという反対給付を得ていることになります。

【生徒B】 そうすると、先生のおっしゃられた判旨を簡単に言うと、国家が課税権に基づいて、経費に充てる目的で、一定の要件に該当する人にお金を支払ってもらうけれども、それを支払われたってそれに対応する対価を国からもらおうなんて思わないでよ、ってことですか。

【弁護士】 そういうことです。そのような性質を持つお金が84条の「租税」であって、○税という名前がついているかは関係ないんですね。では、市町村が支払いを求める国民健康保険の保険料は、本条の「租税」に該当しますか?

【生徒B】 いやいや、保険料が「租税」に入るわけないじゃないですか!

【生徒A】 B君、さきほど先生が名目は関係ないとおっしゃっていたじゃないですか!

【生徒B】 そもそも、国民健康保険ってなんでしたっけ?

【弁護士】 国民健康保険とは、保険に加入している人が、病気やけがをしたときに、病院の診療費を一部負担してくれる社会保険のことです。国民健康保険の主な対象者は、自営業者、農家、主婦、会社退職者、未成年の学生です。日本では国民皆保険制度が採用されており、日本に住む国民は何らかの社会保険に入る必要がありますから、他の人たち、例えば、サラリーマンは健康保険、医者は健康保険組合、公務員は共済組合といった社会保険にそれぞれ加入する必要があります。

【生徒A】 そして、国民健康保険は市町村が運営しているから、市町村から保険料の支払いを求められるわけですね。

【弁護士】 では、本題に戻りましょう。国民健康保険料は、84条の「租税」に含まれますか?

【生徒B】 国民健康保険は、保険料を支払うことによって医療費の自己負担が一部のみになるというメリットがあるのですから、まさしく、保険給付を受けることに対する反対給付としての性質を持ちます。したがって、さきほどの判例の「租税」の定義にはあてはまらないと思います。

【弁護士】 おぉ!B君すごいじゃないですか!最高裁も、B君の言った内容で、国民健康保険料は「租税」には該当せず、84条は適用されないとしました。しかし、最高裁は、これでは終わらず、「租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を持つものについては、本条の趣旨が及ぶ」としています。つまり、本条にいう「租税」には該当しなくても、強制の度合いなどで租税と似ているものについては84条の趣旨を及ぼすこととしているわけですね。

【生徒A】 趣旨を及ぼすとはどういうことですか?

【弁護士】 趣旨を及ぼすというのは、法律のある規定にバッチリあてはまらなくても、その規定の基礎とする点と同じ事柄については、その規定の考え方を用いるということです。国民健康保険料が問題となったケースにおいては、84条の趣旨を及ぼす結果、支払いを強制する程度などと照らし合わせて、どの程度明確に課税要件を定めなくてはならないかを決めましょうと判示したことになります。

【生徒B】 難しいですね…

【弁護士】 説明が悪くて申し訳ない(笑)。この判例は難しいので、完璧に理解しなくても良いですよ。ただ、○○税という名前のものだけでなく、国民健康保険の保険料のように払うことが強制されるものについては、84条の基本的姿勢を基にして、法律などできちんと定めておきましょう、と最高裁は言ったということだけおさえておいてください。

【生徒A・B】 わかりました。

このサイトの運営者情報はコチラから

より詳しい論点